生命力に溢れ、あっという間に成長する熱帯植物ユーカリ。十九世紀半ば、オセアニアから南ヨーロッパを含む 亜熱帯地中海気候への植樹に成功している。見上げるほどの大樹は、ガレの病んだ心と体に深く 印象づけられたに違いない。

この新しい植物をガレは忠実に描くと共に、見事に芸術作品に変えている。開花を迎える前の花弁とがく片が 合着してできる帽子状のユーカリの蕾は全く生きているかのように作られ、アップリケの技法によって花瓶の 上部に溶着されている。開花の時はそれが脱落し、全く形を変えた花となる姿も描かれている。斜め、または 垂直にたれ下がるユーカリの葉の性質通り、葉はその位置に正確におかれている。しかし一枚は銀化した金で、 もう一枚は紫から赤に変色する古色(パチン)で制作されており、現実の色ではない。ユーカリの葉は色を変え られることによって、自らの力が時に人間に特別な安らぎを与えてきたことを誇示しているのである。ガレは 素朴で美しい野草たちとは異なり、大地にしっかりと根を下ろし地球を守ってきたこの大樹に、植物の尊さと 絶対的信頼を新たに見い出したのであろう。

花瓶の全体は模玉である。神が創られた地球の偉大さゆえに、ガレはこの技法を特に選んだのであろう。 全体に見えるすじ状の文様の一部は石目であり、また、地中から養分を吸い上げる維管束の力強い流れである。 全体を古色に仕上げることによって、地球の連綿たる姿を新たに認識するガレの心情が脈のように伝わってくる。

ガレはこの作品を一九〇三年、パリのナンシー派展に出品し、その時自ら生きたユーカリの枝を生けている。 花瓶に装飾された植物と同じ植物をそこに生けるというガレの画期的なアイディアは、当時物議を巻き起こした。 自分の作品が美術館に並べられるよりも、身近に置かれ、所有者との語らいや共存を望んでいたガレならでは のエピソードといえよう。